「テレビドラマ公募脚本の書き方講座」                                       -第43回創作テレビドラマ大賞 公開講座- レポート

 去る519日(土)、渋谷道玄坂フォーラム・エイトにて、「第43回創作テレビドラマ大賞 公開講座」が「テレビドラマ公募脚本の書き方講座」と題して行われました。

 

脚本家・吉田智子さん
脚本家・吉田智子さん

  日本放送作家協会の藤森いずみ公募担当常務理事の挨拶に続いてスタートした第1部では、最初に脚本家の吉田智子さんによる講演が行われました。NHK朝の連続テレビ小説『わろてんか』、映画『君の膵臓を食べたい』などのヒット作の脚本をたくさん執筆されている吉田さんは、広告会社でコピーライターとして勤務したのち、脚本家デビューに至った経緯をお話されました。その上で、自身がかつてコンクールに応募して入選した作品を例に、脚本の“つかみ”、つまり冒頭部分がいかに重要かを具体的に解説されました。審査員の興味を引くようなタイトルをつけることも、コンクール応募のコツであることを紹介されました。そうした実践的なアドバイスは、応募を目前にした受講者にとって大変に役に立つものだったと思います。同時に、「私の脚本には、兄弟愛、家族愛、人間愛など、様々な『愛』が根底にある」という自らの創作の原点を語った言葉が、とても印象に残る講演でした。

 

脚本家・石原理恵子さん
脚本家・石原理恵子さん

  続いて、前回の大賞受賞者である石原真理子さんによる講演が行われ、受賞作『週休4日でお願いします』の発想の原点などについてお話されました。受賞作は、自身の仕事上の体験をもとにして書かれたとのことです。それを踏まえて受講者に対しても、「過去の傷やわだかまりなど、記憶の中にある様々なものを掘り起こしてみてはどうでしょうか?」とアドバイスされました。また、「自分が書きたいことを書く」ということに関して、「自分が書きたいことというのは、誰かにそれを熱を込めて話せることではないか」という言葉にも納得させられました。流行などに左右されず、自分の書きたいもの、好きなものを書くことの大切さが伝わる講演でした。

 

NHKチーフプロデューサー松川博敬さんと日本大学芸術学部教授・中町綾子さん
NHKチーフプロデューサー松川博敬さんと日本大学芸術学部教授・中町綾子さん

  第1部の最後には、NHKドラマ番組部チーフプロデューサーの松川博敬さんが、日本大学芸術学部教授の中町綾子さんの質問に答える形でお話されました。松川さんが最近担当された土曜ドラマ『やけに弁の立つ弁護士が学校でほえる』を例に、その制作の過程を紹介。脚本家とスタッフが一緒につくり上げたオリジナルドラマで、脚本家の浜田秀哉さんは十数ページの人物表をつくって、主人公のキャラクターを練り上げたそうです。ドラマにおけるキャラクターづくりの重要性が伝わるお話でした。松川さんは応募にあたって、「応募作が放送されるのを見越して、その反響を意識しながら執筆する」ことをアドバイスされました。コンクール段階から制作現場を意識することはあまりないだけに、とても貴重なお話でした。

 

(左から)藤井香織さん、吉田智子さん、足立紳さん、松川博敬さん、大原拓さん、中町綾子さん
(左から)藤井香織さん、吉田智子さん、足立紳さん、松川博敬さん、大原拓さん、中町綾子さん

  その後の第2部では、座談会が行われました。脚本家の藤井香織さんの司会で、吉田さん、松川さん、中町さんに加え、脚本家の足立紳さん、NHKドラマ番組部チーフプロデューサーの大原拓さんが「キャラクターを立てよう!」というテーマでお話をされました。出席者の皆さんは、自身が関わったドラマを例に、キャラクターとは何か、どうやってキャラクターをつくり上げるのかなどについて、それぞれの考えを述べられました。足立さんや吉田さんは脚本家の立場から、厚みのあるキャラクターをつくり上げる大切さを語る一方、大原さんは制作者の立場から、役者の演技に委ねる余白のあるキャラクターも存在することを語るなど、多様な視点からキャラクターについて考えさせられるお話でした。

 

  そうした中でも共通していたのは、魅力的なキャラクターがあればドラマも魅力的になるということです。ドラマの脚本を書いていると、勝手に人物が動き出す瞬間があると吉田さんは言います。そういうキャラクターをつくることが、良い脚本を書く第一歩なのだとよく理解できました。さらに、吉田さんはキャラクターを裏切るような展開がよくあるというアメリカのドラマの話をされるなど、ここでも興味深い話がたくさん聞けました。

 

  座談会の最後には質疑応答が行われました。「物語の構成をあらかじめ決めてから脚本を書くのか?」「コンクールの人物評はどの程度詳しく書けばいいのか?」「時代劇とはどこまでの時代を指すのか?」「流行語や登録商標にあるような言葉を使ってもいいのか?」「子供のキャラを立てるにはどうすればいいのか?」といったように、コンクールに関する質問からドラマ全般に関わる質問まで、受講者たちの様々な質問に出席の皆さんがていねいに答えてくださいました。座談会の最後には、皆さんから受講者に向けて、「熱を持って書いてください」「自分を信じてあきらめずにチャレンジしてください」など熱いエールが送られました。

 

日本放送作家協会理事長さらだたまこ
日本放送作家協会理事長さらだたまこ

  日本放送作家協会のさらだたまこ理事長が、受講者に激励の言葉を送って今回の公開講座は終了となりました。テレビ離れともいわれる昨今ですが、この日、集まった受講者からはテレビドラマへの愛が感じられました。皆さん、年齢もキャリアも様々ですが、真剣に講師の話に耳を傾け、少しでも面白い脚本を書こうという意欲が伝わってきました。先輩の脚本家や制作現場の方の話を聞く機会は、ふだんはめったにありません。しかも、目前に迫ったコンクールという明確な目標に沿ったお話なので、なおさら参考になりました。今後のコンクール応募だけでなく、執筆活動全般に役立つのではないでしょうか。今後もこうした場に積極的に参加して、多くのことを吸収したいと思いました。