第41回創作テレビドラマ大賞 公開講座レポート(2016/5/28)
去る5月28日(土)、渋谷・フォーラムエイトにて、「第41回創作テレビドラマ大賞公開講座」が行われました。
会場はたくさんの受講生で開始前から大変な熱気でした。そんな中、最初に行われたのは「応募作品ワンポイントレッスン」と題した脚本家の小松與志子さんの講演です。コンクールの審査員も務める小松さんは、審査員の立場から執筆のポイントをアドバイス。「当たり前の話でも切り口を変えて個性を出すようにする」「脚本の出だしはなるべく印象的なものにする」「人間関係がよくわかるようにする」といったアドバイスは審査員経験者ならではのもので、応募に向けてとても役に立ちました。また、「起承転結の『承』の部分が冗漫だとテンポが悪くてつまらなくなる。ありきたりでない展開を心がけて欲しい」というアドバイスも実践的で心に残りました。最後に小松さんは、「今の自分の力でこれ以上のものは書けないと思えるような、後悔のない作品を書いてください」と温かなエールを送ってくれました。
続いて行われたのは、「脚本家を目指すみなさんへ」と題した脚本家の尾崎将也さんの講演です。尾崎さんは最初に「脚本は長期的に取り組むもの」と述べたうえで、「P(Performance)=成果」「PC(Performance Capability)=目標達成能力」という言葉を紹介しました。「脚本家志望者にとって、Pは作品、PCは自分の脳です。土壌に養分を与えれば良い作物が生まれるように、自分の脳に様々なものをインプットすることで良い作品が生まれます」と、ホワイトボードを使いながら説明。ただし、それは数年単位の長期的なスパンで取り組むもので、「バケツの中に砂粒を入れるような難しい作業」だそうです。尾崎さん自身は、それを勉強モードではなく楽しみながら行うことができたとか。「苦痛を感じては長続きしません。脳にインプットするのが好きな人でないと、脚本家にはなれません」と尾崎さん。今回のコンクールの対策だけでなく、脚本家としての心構えを教えられたお話でした。
その後は、「演出家からみるよい脚本とは」と題して、NHKシニアディレクターの田中健二さんが制作側の立場から講演を行いました。田中さんは「ドラマづくりは多くのスタッフがかかわる共同作業で、それを通して『思い』を受け渡していくもの。そのことを理解して執筆して欲しい」と要望しました。そのためには、「人対人」を大切にして、「こういうことを言ったら、相手はどう思うか」をシミュレーションしながら書くとよいそうです。また、「審査員の受けを狙ったりせずに、心の中のアンテナに引っかかったものを書くことが大切です」というお話もありました。その他にも、ディレクターとしての経験をもとにした様々なアドバイスがありましたが、最も強調したのは、「自分の思いを大切にしながら人に届けることを意識する」こと。「ドラマには力があり、多くの人々の心に届きます。自己満足にならずに、人々の心にコミットするようなドラマを書いてください」という締めくくりの言葉に、受講生たちは決意を新たにしていたようです。ふだんはなかなか聞けない制作現場からの話だけに、受講生にとって貴重な機会になりました。
この日の最後に行われたのは座談会です。これまでに講演を行った小松與志子さん、尾崎将也さん、田中健二さんに加え、脚本家の土橋章宏さんと足立紳さん、NHKディレクターの松浦善之助さんが出席。脚本家の井出真理さんの司会で、「大賞をとれる脚本 とれない脚本」と題して、受講生からの質問をもとに様々なテーマについて語りました。土橋さんは『超高速!参勤交代』で、足立さんは『百円の恋』で、それぞれ日本アカデミー最優秀脚本賞を受賞しています。また、足立さんは第38回創作テレビドラマ大賞を『佐知とマユ』で受賞しています。受講生にとって、とても興味深いメンバーによる座談会でした。
この座談会ではコンクールの審査のポイントについて、「熱意が伝わってくる脚本を選ぶ」「面白いかどうかが最大のポイント」「読みやすい脚本であることも重要」といった指摘がありました。また、脚本執筆やドラマ制作で自身が気をつけていることについては、「ただ面白いだけでなくヒューマンドラマを取り入れるようにしている」「相手が期待する以上のものを書くように努力している」「脚本家と製作者が価値観をすり合わせていくことが大切」といったお話がありました。その他にも、「モデルになる人を見つければ主人公のキャラがつくりやすい」「面白くしたいからといって安易な設定に走るのはよくない」「作品によっては文献にあたったり、取材をすることが重要」といった様々なヒントが語られました。4人の脚本家からは、デビュー前の不安やそれをどうやって解消したかについての紹介もありました。2人の制作者からは、現場が求める脚本についてのお話もありました。会場からはト書きについての質問などがあり、講師が回答しました。
座談会の最後には、講師からメッセージが贈られました。「脚本で人を泣かせたり笑わせる脚本家は、マジシャンのようなもの。最高のマジックを見せて欲しい」(小松さん)。「自分は黒澤映画を全部観てインプットした。みなさんも昔の良い作品を観て勉強して欲しい」(尾崎さん)。「チャンスはいくらでもあるので、とにかく頑張って欲しい」(土橋さん)。「ドラマや映画が好きな人なら必ず脚本家の道が開けるはず」(足立さん)。「ドラマづくりは肉体労働。強い体と心、そして柔軟性をもって努力して欲しい」(田中さん)。「自分が伝えたいものを最後まで紙に書くことが大切」(松浦さん)。力強いメッセージが、受講生の気持ちを奮い立たせくれたようです。
今回は、いつも以上にバラエティーに富んだ講師陣で、内容も公募脚本執筆のヒントから、脚本家としての心構えまで幅広いものでした。2時間半近い長丁場の講 座にもかかわらず、ほとんどの受講生が集中力を切らさずに、講師の一語一語をかみしめながら聞き入っていたようです。私を含め受講生にとって、コンクール 応募はもちろんですが、今後の執筆活動全般に役立つ内容だったと思います。この日学んだことを大切にしながら、これからも地道に努力を続けていきたいと思います。 (セミナー受講生 T)