「大賞受賞脚本家・山本むつみさんに あれもこれも きいてみよう!」-第50回創作ラジオドラマ大賞 公開講座 レポート-
公開講座 第1回 ゲスト:山本むつみさん
前半は「山本むつみ誕生ストーリー」、後半は「質問コーナー」です。
お芝居・ドラマ・歌舞伎が好き。20代のころは、図書館で名作歌舞伎全集25巻読んだり、向田さん、山田さん、倉本さんの脚本を読んだり。
出版社勤務で、4回転職した。創刊した雑誌が廃刊になったとき、時代小説を書いて応募しようと思った。表現力をつけるのに、シナリオセンターに通い、20枚シナリオを50本書いた。
最初はコンクールには通らない。でも1年して、猛然と何かを書きたい、と沸き起こってきた。
そのとき、ちょうどラジオドラマのコンクールがあった。
時代劇を書きたいと思った。BKで佳作。四国放送50周年記念 大賞。
そしてNHKの公開講座があった。NHKドラマ部の方がスピーカー。
「現代と向き合ってほしい。切り結んで欲しい。時代劇でもかまわない」と仰っていた。
それでNHK創作ラジオに「唐木屋一件のこと」を書いて、それが大賞を取った。
Q:企画やテーマをどこから見つけていたか?
A:江戸言葉を書きたいという衝動があった。
何を書いたらいいか悩むより、自分の書きたい衝動、熱の方を大切に。
それが審査員にも伝わる。
自分の中にタネがあった。シナリオセンターの習作がタネにあった。
若い時は早く書ける。勢いも大事。
Q:BKラジオと創作ラジオと両方で賞を取っていらっしゃるが、何が違ったか。
A:審査員との相性、ほかの作品との比較、運よく取るときも運悪く取れないときもある。
1本だけ取れたら、たまたまかも。
3本賞を取れれば自信を持っていいんじゃないかな、と思った。
青春アドベンチャーを書いている時、テレビのPが会いたいと。 「御宿かわせみ」。
賞を取った作品を読んでくださっていた。 賞を取る=目に留まる、ということ。
Q:ラジオで公募してテレビに抜擢されて、違いにとまどったことはありますか?
A:シナセンでは映像を意識して書いていた。皆さんが思うほど、壁はない。
ものが見えているから書かなくても大丈夫、と言われたくらい。
コンクールはオリジナル。プロになって、原作があって脚色することのほうがとまどった。
シナリオの勉強のときに、脚色はなかなか経験できない。
Q:会社員として働かれていたが、時間の使い方は?
A:自分は運がよく、NHKのPが夜8時半の打ち合わせにしてくれた。
木曜の夜に打合せして、金土日で書いて渡す。
集中と徹夜。座り続ける体力。気力も体力からくる。 2年間、二足の草鞋でこなした。
「秘太刀馬の骨」も1クール書いた。締め切りには遅れなかった。締め切りは守ること。
Q:「脚本1本でいく」と決意した、決め手は?
A:脚本1本で食べていけるとは思っていなかった。ただこのままやっていくと、編集者も脚本も中途半端になるなと思っていたとき、会社が傾いて早期退職の案内が来たので、真っ先に手を挙げた。 退職金でマンションのローンが返せた。タイミングもあった。
大事なのは生活していくこと。
ある程度、計算が立つまではいまの仕事にしがみついた方がいい。
Q:コンクール応募時と、プロとして企画提案するようになってから、違いが出たか?
A:コンクール応募時は衝動や熱が大事だった。
プロになってからは、ラジオもテレビも視聴者のためのもの、向こう側にいる人に届けることを意識。枠の特性も考える。いろんな人が見ている。朝ドラは病院で見てる人もいる。
自分の思いだけでもダメで、いろんな制約の中で、大勢の人に見ていただけるように。
ただ、プロになって、不自由になったわけではない。
制約、枷が自分の書ける範囲を広げていく。新しいものを書けるようになる。レベルが上がる。
トップセールスを書くとき、自分はペーパードライバーだった。
そのとき、調べて初めて知ったことが、のちのち役に立った。
ムリそうに見えることの中にチャンスがある。
現場では尺にセットにと、いろんな制約がある。それが自分の書く力を鍛える。
Q:ラジオとテレビ、書く上での違いは?
A:映像がないので不便に見えるけど、ラジオドラマはなんでもOK。自由度が高い。
ただラジオは、似た属性の人物が出ると、誰が話してるか、聞いててもわからない。
同じ年代の女の子がいっぱいとか。
その時は話し方の特徴で、書き分けないと。江戸時代は言葉で身分の違いがわかる。
現代物でも喋り方で、書き分けられるならいい。
Q:自分とかけ離れた世界を書くときのコツやポイントは?
A:取材すること、調べること。ただし、研究レポートにならないように。
どうやったらドラマになるか。人間を描く。その世界と向き合って、自分が入っていく。
「八重の桜」を書いてて、自分で泣いた。
どんな世界でも、登場するのは人間。実はそんなにかけ離れていない。
そう思えば自分に引き寄せることができる。
Q:「コウノドリ」を執筆した際、あらためて取材したところはあるか?
A: 与えられたものだけでは書けない。取材もして、自分でも調べた。
しかし、調べていても、どこに何があるかわからない。
山を掘って、ここにあった、と鉱脈を見つける瞬間がある。
資料本のあとがきの参考資料は手がかりになる。
与えられたものより、自分で見つけたものの方が、身につく。次の作品の財産になる。
「コウノドリ」と「トップセールス」で調べて見についたことが、「病院の治しかた」につながった。
Q:ときに事実とは違っても、フィクションを書きたいときのコツは?
A:ドラマはフィクション。ディテールをリアルにする。
取材しても、書くのはフィクション。ウソがあると、リアリティを失う。
家での暮らしとかをリアルにする。
また、ドラマ上のキャラクターをつかむこと。
実際のエピソードがなくても、この人物ならこういうことを言うだろう、するだろう、と。
Q:登場人物のキャラクター設定はどうやって? 大切にしていることは?
A:大切なことはまず取材する、調べる。
人間は時代の制約で生きている。時代背景を知る。
それを踏まえた上で、そこからはみ出している人が主役になる。
主役は、ほかの誰とも違うキャラ。それを際立たせる。
いい例が大谷選手。大谷は野球のルールの中で、彼だけが二刀流。
水木さんなら妖怪を書き続ける。
八重さんなら一人だけ鉄砲を持って戦っている。
キャラが最初から固まっていなくてもいい。書いていくうちにキャラが成長していく。育っていく。
それが書き手にとっても楽しみ。書き手が思う、斜め上の行動をしてくれたり。
作りつつも、変化もさせましょう。
Q:台詞を磨くにはどんな訓練? 自然な会話、台詞を書くには?
A:時代劇では、歌舞伎の台詞を耳で聞いていたことが役に立った。
いい台詞を書こうと思わないようにした方がいい。
キラッと光るいい台詞は、コンクールの応募作にもある。
プロで続けるには「構成力」。
テーマ・キャラ・台詞とよく言うが、「構成力」のことがあまり語られない。
次も聞きたい。最後まで見たい。引っ張っていく力が「構成力」。
キャラが出来ていれば、この人が言うべき台詞が生まれてくる。
サスペンスが書ける。ずらして泣かせる。テクはある。
構成とは、登場人物同士の人間関係をしっかり仕組むこと。
愛しているか、憎んでいるか。
人間を描く、とは踏み込んでいえば、人間関係を描くこと。
そこがドラマだと思っている。
コンクールで次が読みたいと思わせるのは「構成力」。
構成を磨くのがプロとして必須。
そのためには人間関係を、具体的に突き詰めていくこと。
「人間関係のあや」と「時間軸」で組み立てる。
「キャラ単体」で考えるのではなく、「この人とこの人の関係性で」、と考えていく。
コンクールでは、どうなるんだろう?と思わせる。ああ、こうなるのか。ここに来たか、と。
最後に、なるほど! 腑に落ちた!と思わせてほしい。
審査員をすると、「この才能を売り出したい」って思う。
ドラマの未来は明るくあってほしい。新しい才能を見つけたい。
ビックリさせてほしい。
Q:創作のために、ふだんの生活で心掛けていることは?
A:脚本家適性の第一は好奇心。
調べたことの9割は捨てても、そこで知った素材で次のドラマを書きたいと思う。
タネが見つかる。 その繰り返し。
面白がる。こんな面白い人がいる! それを人に伝えたい。
その無限ループ。
ですので、書くものがもう何も出てこないと思うことはないですね。