第39回創作テレビドラマ大賞 公開講座レポート
去る5月17日(土)、渋東シネタワーにて、「第39回創作テレビドラマ大賞 公開講座」が行われました。
最初に行われたのは、「作品を書く、その前に」と題した金谷祐子さんの講義です。そこでは、創作テレビドラマ大賞の応募作品執筆の心構えが紹介されました。たとえば、「規定の45分の放送時間は短い。だから、ドラマを早く始めること。連続ドラマのように考えていてはダメ」というアドバイスがありました。その具体例として御伽話『桃太郎』を挙げて、「桃太郎が鬼退治に出かけるところから書き始めましょう」と、わかりやすく解説。その他にも、「最近の受賞作をチェックして、似たような作品はなるべく書かないこと」「最後は必ず読み直して、誤字・脱字をなくすこと」といった、すぐにできる実践的な内容で、受講者たちは熱心に聞き入ったり、メモを取っていました。
続いて行われたのは、去年の第38回の大賞受賞者・足立紳さんの「テレビドラマ大賞を受賞して」と題した講演です。もともと映像の世界にいた足立さん。「これでダメならもう映像の世界から足を洗う」と決めて書いた数本の脚本のうちの1本が大賞を受賞しました。前回の受賞者だけに、あとに続きたいと思う受講生にとっては身近な存在。それだけに背中を押してくれるお話だったと思います。足立さんの受賞作『佐知とマユ』の制作はこれからですが、完成が楽しみです。
その後、脚本家の坂口理子さんが「テレビドラマ大賞を受賞したころ」と題して講義を行いました。坂口さんは第31回の大賞受賞者。「受賞作『おシャシャのシャン!』は、放送までに約10稿の直しを重ねました。プロデューサーとのやり取りなど、たくさんのことを勉強しました」。そんな制作過程のようすとともに、興味深かったのは受賞後の活動です。「受賞後はテレビドラマだけでなく、舞台など様々な場で活躍するチャンスをいただきました。特に、昨年公開のスタジオジブリ制作の映画『かぐや姫の物語』の脚本を担当したのは私にとって大きな出来事でした。そのきっかけは、高畑勲監督が『おシャシャのシャン!』の放送を見てくださったことでした」。受賞によって、様々なチャンスの扉が開かれるというお話は、応募を目指す受講生にとって、ますますモチベーションが高まるものだったと思います。
続いて登場した脚本家の竹山洋さんは、「テレビドラマ大賞に挑戦する皆さんへ」と題して、自身の脚本家デビューまでの道のりをユーモアたっぷりに語りました。自信満々でコンクールに応募したものの、あえなく落選した竹山さん。「自分を評価してくれないコンクールなんて意味がない!」と考え、先輩作家のもとに住み込みで勉強を始めました。
そんなある日、原稿を書き上げた竹山さんに先輩作家が「ごちそうしてあげよう」と言ったそうです。「こちらは当然豪華な食事にありつけると期待したわけです。ところが連れていかれたのは普通の牛丼屋。“なんだよ。こんなところかよ”と内心不満だらけの私に、師匠は言いました。“こういうものを美味しいと感じる気持ちがないと、良い脚本は書けないよ”。その言葉にショックを受けました。自分は今までなんと身勝手だったのか。もっと謙虚な姿勢で脚本に向き合わないといけないと思いました。脚本は俳優、勧進元(プロデューサー)、お客様のためのもので、自分のものではない。自信を持つのはいいが、傲慢になってはいけません」。
また、竹山さんは脚本家として壁にぶつかった時に、先輩の早坂暁さんから言われた「脚本はクライマックスから書きなさい」というアドバイスも紹介。さらに、自作のNHK大河ドラマ『利家とまつ』の「わたくしにお任せくださいませ」というセリフを例に、「良いセリフが一つあればそれだけでドラマが変わる」というお話をされました。どれも実体験を通して得た教訓だけに、受講生たちはどんどん引き込まれていきました。
コンクールの審査員には、制作現場のスタッフもいます。それだけに「制作現場がどんな脚本を求めているか」を知ることは大切です。この日は、NHKエンタープライズ・エグゼクティブプロデューサーの黛りんたろうさんが講義を行いました。「現場から見た良い脚本とは、素直に入ってくる脚本。それは、俳優、演出家、カメラマン、照明など様々なスタッフが読んで映像が思い浮かび、イメージを広げられるもの。いわば“余白”のある脚本です」。
また、「セリフについては、本能に基づいた嘘のないセリフでなければいけません」とアドバイス。その具体的な例として、竹山さんが書いて、黛さんが演出したNHK大河ドラマ『秀吉』で、千利休切腹の朝に秀吉が訪ねた際のセリフを取り上げて解説しました。「セリフを通して、生きた人間として秀吉と利休が何を考え、行動したか、イマジネーションか広がります。そこには二人に対する鎮魂、祈りが込められています」。黛さんが強調したのは、脚本に魂を込めること。受講生にとって、脚本とは何かをもう一度考えさせてくれる講義だったと思います。
公開講座の最後は、「大賞がとれる脚本 とれない脚本」と題した座談会です。竹山さん、坂口さん、黛さんに、NHKドラマ番組部チーフプロデューサーの谷口卓敬さんも加わって、金谷さんの司会で進められました。
事前に受講生から寄せられた質問を参考に、大賞をとる脚本とそうでない脚本の違いを紹介。その中では「みんなを驚かせる脚本」が一つのキーワードとして登場しました。その条件として、「作者の思いがこもった脚本」「メッセージのある脚本」などが挙げられました。また、セリフについて「セリフは一字一句に意味がある」「登場人物に無理にしゃべらせたセリフはよくない」といったアドバイスもありました。最後には、「テレビと映画の違いは?」「創作テレビ大賞にターゲットはあるのか?」「時代劇は対象外というが、具体的にはどの時代からダメなのか?」といった会場からの質問に、講師の皆さんが回答しました。
座談会終了後、さらだたまこ理事長のあいさつが行われ、予定の2時間半があっという間に終了しました。今回の講義は、執筆に向けた具体的なアドバイスはもちろん、脚本とは何か、脚本家はどうあるべきかといった奥の深い話もあり、私を含め受講生にとって、コンクール応募だけでなく、今後の執筆活動や人生にも役に立つ内容だったのではないでしょうか。この経験をぜひ今後に生かしていきたいと思います。
(セミナー受講生T)