第42回 創作ラジオドラマ大賞 公開講座レポート(2017/5/20)
去る5月20日(土)、渋谷・フォーラムエイトにて、「第42回創作テレビドラマ大賞公開講座」が行われました。
広い会場はたくさんの受講生で埋め尽くされ、始まる前から熱気に満ちていました。最初に登場したのは、『リーガル・ハイ』をはじめ多数のヒットドラマを生み出してきた脚本家の古沢良太さんです。日本大学芸術学部の中町綾子教授の質問に答える形で、これまでの歩みと脚本家として大切にしていることをお話されました。コンクール受賞を機に、プロの脚本家となった古沢さんは、人気ドラマ『相棒』の和泉聖治監督から「アイデアを出し惜しみするな。一番大事なものを出し続けろ」と言われ、それを実践してきたそうです。コンクール応募にも役立つアドバイスだけに、受講生たちは目を輝かせて聞いていました。また、「100%満足したことはないが、その後悔が次の作品につながる」「世界中の人々が面白い脚本を欲している。脚本家は素晴らしい仕事」といった言葉も、受講生の背中を押してくれるものでした。
続いて、連続テレビ小説『とと姉ちゃん』などのヒット作を持つ脚本家の西田征史さんが、中町教授の質問に答える形でお話をされました。西田さんはもともとお笑い芸人としてデビューした異色の存在。その後、演劇の脚本・演出などを担当するようになったのをきっかけに、本格的に脚本家の道を歩み始めました。演劇で観客を直接目の前にしていた経験は、現在の仕事にも生かされているそうです。また、中学時代に落語を愛好していたことが脚本家としてのベースにあることや、かつて演劇の脚本を書いた時に出演者のきたろうさんの演技を見て、俳優の持ち味を生かす脚本を書くようになったエピソードなども、ユーモアを交えて披露されました。「現場には様々なプロデューサーがいるが、できるだけそのオーダーに応えるように努力している」というプロとしての心構えは、プロ脚本家を目指す受講生の胸に強く響いたようです。
その後、前回の大賞受賞者の佐々木由美さんが、受賞に至る自身の経験談をお話されました。佐々木さんは脚本スクールに通っている間、自分が書いてきたストーリーや脚本を、先生や仲間たちから厳しく批評されたそうです。今になって、それがとても役に立っているといいます。また、佐々木さんは以前にコンクールで受賞を果たしたものの、本格的なデビューができずに一度は脚本を書くのをやめたそうです。しかし、やはり脚本が好きで趣味として脚本執筆を再開。それが前回の受賞につながったといいます。ウェブデザインの学校に通っている時に浮かんだという受賞作のアイデアを例に、「日常を作家の目で見る」というアイデアづくりのポイントも紹介されました。諦めずに書き続けることの大切さを痛感させられるお話でした。
制作者側からのお話もありました。大河ドラマ『真田丸』の演出などで知られるNHKディレクターの木村隆文さんは、「制作者側から見た良い脚本の条件」を3つ挙げられました。1つは「作者の熱い思いが感じられる脚本」。ただし、自分の思いだけでは面白い脚本にはなりません。そこには普遍性が必要です。2つめは、「登場人物のキャラクターが明確な脚本」。そのために登場人物のバックボーンをしっかり作ることが大切です。そして3つめは「製作者の想像力をかきたてる脚本」。ドラマにはたくさんのスタッフが関わっています。そうした皆さんが、自分の思いを乗せる余地のある脚本が求められるとのこと。例えばト書きにしても詳しく書きすぎると、演出家や役者などが想像力を発揮する余地がなくなります。脚本家とは違った視点からのお話が聞けて、とても参考になりました。
最後に行われたのは座談会です。古沢さん、西田さん、木村さんに、昨年放送された『私 結婚できないんじゃなくて、しないんです』などたくさんのヒット作を持つ脚本家の金子ありささん、連続テレビ小説『てっぱん』など多くの作品を演出されてきたNHKディレクターの石塚嘉さんが加わり、脚本家の井出真理さんの司会で、脚本についての幅広いお話がありました。前回の創作テレビドラマ大賞で最終審査を担当した金子さんは、その時の経験を踏まえて、「プロットの段階から、主役に宛ててラブレターを書くような気持で取り組んで欲しい」とアドバイスされました。
その後は、事前に受講生から寄せられた質問をもとに、具体的な執筆のポイントについてのアドバイスがありました。「アイデア、題材、テーマはどこから生まれるのか?」という質問に対して、古沢さんは「心が動くことを大事にしている。なぜ心が動いたのか、自分の心を分析してアイデアにつなげている」と創作のコツを紹介。西田さんは「まずはシチュエーションから入る。ニュースをはじめ様々な出来事からアイデアが生まれる」と答えました。また、金子さんは「自分にしか書けないと思う題材、テーマを大切にしている」というお話でした。
「登場人物のキャラクター設定は?」という質問に対して、木村さんは「人間には裏表がある。その両面を描くべきだ」、石塚さんからも「人物のセリフや行動に振幅があるほうが魅力的」といったお話がありました。また、「良いセリフとは?」という質問に対して、脚本家の皆さんからは「それぞれの人物が感情のやり取りができるセリフ」、「キャラクターが現れた生っぽいセリフ」などの答えがあり、制作スタッフの皆さんからは「行間を大切にしてイメージが膨らむセリフ」「ドキュメンタリーのようにリアルなセリフ」といった答えがありました。その他にも、「取材について」「登場人物のキャラクター設定が先か? ストーリー作りが先か?」など様々な質問に対して、皆さんが親身に答えてくださいました。
座談会の最後には、出席の皆さんが応募に向けてエールを送ってくださいました。「一番大事にしているものを全力で書いてください」(古沢さん)、「自分にしか書けないものを自分の感性で書いてください」(西田さん)、「たとえ不幸な体験でもそれが脚本の種になるのが脚本家。そんな前向きな気持ちで書き続けて欲しい」(金子さん)、「コンクールは自由な世界。自分の思いをぶつけて欲しい」(木村さん)、「脚本家は多くの人の魂を揺さぶる面白い仕事。ぜひ私たちと一緒に仕事をしましょう!」(石塚さん)。
最後に放作協のさらだたまこ理事長が、受講生に激励の言葉を贈って公開講座は終了しました。今回は、ドラマ作りの最前線で次々にヒット作を送り出している脚本家や演出家の皆さんが講師とあって、まさに現場の生の声が聞けた講座だったと思います。受講生にとって貴重な経験になったようで、2時間を越える長丁場にもかかわらず、集中して聴き入る姿が印象的でした。約1か月後に締め切りが迫ったコンクール応募に有益だっただけでなく、テレビドラマの世界についてさらに関心をさらに深め、今後の執筆活動のモチベーションになる内容だったと思います。この日学んだことを無駄にしないように、書き続けていきたいと思います。 (受講生)