第43回創作ラジオドラマ大賞 公開講座レポート
去る11月15日(土)、渋東シネタワーにて「第43回創作ラジオドラマ大賞 公開講座」が行われました。
最初に行われたのは、今回の司会者も務める井出真理さんによる「オーディオドラマの書き方」です。
創作ラジオドラマ大賞の入選がきっかけでデビューをした井出さんによる講義は、受講者の皆様から事前に寄せられた質問に答える形で進められました。
「ラジオドラマにもプロットが必要なのか?」「時代劇はラジオドラマで出来るのか?」「音楽の曲名は書いた方がいいのか?」等の質問に対して、実践的かつ具体的なラジオドラマの書き方を講義してくださいました。
中でも印象的だったのはSEの活用法についての質問に、井出さんは以前佳作入選した作品の水の音の使い方が印象的だったことを挙げました。
けれど、ラジオドラマとはいえ、音にこだわるのではなく、最終的にはストーリーや登場人物が魅力的でなければいけないと強調しました。
続いて行われたのは作家兼放送作家、脚本家として活躍されている藤井青銅さんによる講演「脚本を書き始める前に」です。
長らくラジオの世界で活躍されている藤井青銅さんによる講演は、以前に担当されていた伊集院光さんのラジオ番組で創った架空アイドル“芳賀ゆい”のエピソードを、当時の事情等を交えつつ、面白おかしく語ってくださいました。
ラジオのリスナーから寄せられた葉書をもとに作り上げた芳賀ゆいのキャラクターは、素顔を見せない謎のアイドルとして当時話題となり、架空のアイドルなのに握手会が開かれたり、ラジオで特番が行われることになるほどだったそうです。
しかし、藤井さんの中では芳賀ゆいというキャラクターをダシに、当時無名だった伊集院光さんを売り出すことが裏テーマとしてあったそうです。
また、この“芳賀ゆい”という企画はバラエティではあるが、ドラマでもあるんじゃないかともおっしゃいました。
ラジオドラマに限らず、物事はガチガチに考えるのではなく、面白ければ何をやったっていいんだという発想で書いた方がいいのではないかという言葉で藤井さんの講演は締めくくられました。
次に行われたのは前回(第42回)の創作ラジオドラマ大賞を「夕暮れ迷子」で佳作第一席を受賞した、石原理恵子さんです。
「ラジオドラマ大賞佳作 それから」と題された講演は、受賞作を書いたきっかけ、受賞し、その作品が放送にいたるまでの経緯を、石原さんが「あまり人前で話す機会がないので……」と恐縮しつつ、事前に書き上げた原稿を読み上げるという形で進められました。
去年の今頃、受講者の皆さんと同じように、前回の講座を聴いていた石原さんは、以前からラジオドラマが大好きだったが、55枚という長さに戸惑い、また現実に疲れていて応募しようかと迷っていたそうです。けれど、前回の講座にもいらっしゃっていたNHKのディレクター佐々木正之さんの作品がとても好きで、もし入選したら、佐々木さんと仕事が出来るかもしれないと思い、その年のクリスマスから三日で作品を書き上げたそうです。
そして翌年の三月に佳作入選の報を聞き、さらにその演出を佐々木さんが行う事になり、自分はとても運が良かったとも語っていました。
その後、放送された作品がきっかけとなって、受賞後の第一作が決まったそうです。
最後に、石原さんは、自分は去年の講座を聴いたことがきっかけで入選することが出来たので、来年の講座でも今回の講座を聴いた人が登壇して、講演するという嬉しい連鎖が続けばいいなとおっしゃいました。
前半の締めくくりで行われたのは、前回の講座に続いて、NHKのディレクター佐々木正之さんが登壇されました。
まず佐々木さんは石原さんの「夕暮れ迷子」を呼んだ当時の印象、その作品が放送にいたるまでの直しをどのように行ったかをお話ししてくださいました。
次に、演出の領域だから分かりにくいかもと前置きしつつ、「ラジオにもカット割りがある」というお話をしてくださいました。演出の頭の中には音像(映像)が出来ていて、テレビと同じように、数人の会話でも誰がどこにいるのか? その人は近くにいるのか? 遠くにいるのか? と考えながら役者を演出するそうです。
まさに演出家ならではの視点に、受講者の方々も刺激されたのか、その後の質疑応答で佐々木さんに対して、次から次へと質問の手が上がりました。
また、ラジオ人気の現状はどうなのか? という質問に「かつてほどお便りが来ることが無くなった」という佐々木さんの答えが印象的でした。
少しの休憩を挟んで、後半は井出さん司会のもと、藤井さん、佐々木さん、石原さんに、脚本家の小松與志子さんが加わり、座談会「まだ間に合う! 私たちはこんな脚本を推したい!」が行われました。
座談会の前に、小松さんが文化庁芸術祭で大賞を受賞されたラジオドラマ「2233歳」を書いたいきさつについてお話ししてくださいました。
その後行われた座談会では公募でも審査員を務める皆様による「魅力的なキャラクターとは? 魅力的な脚本とは何か?」についてお話してくださいました。
皆さんが共通しておっしゃるのは、技術的よりも、その人物に共感できるか? 作家の思いが込められているかが重要であるということでした。
私は中でも「伝えたい誰かを想定して書く」という言葉が心に残りました。
さらに座談会途中から、受講者の皆様の質問に答えるという形で、テーマの選び方、着想を得るために日々心がけていること等をお話ししてくださいました。
その中で、小松さんが「2233歳」を書いたのは、お母様の入院がきっかけだったということも明かしてくださいました。
こうして、終始和やかでありながら、熱い思いの詰まった講座は終わりました。
会場の不手際でエアコンが冷房になっていたそうですが、それ以上に参加者の熱気が伝わる二時間半でした。私も執筆に悩んだときは、当時の会場の肌寒さと講師の皆様の熱い言葉を思い出して、励みにしたいと思いました。(セミナー受講生 T子)